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Honey Boy ハニー・ボーイ

アメリカ映画 (2019)

ディスタービア』や『トランスフォーマー』シリーズなどで知られた映画俳優シャイア・ラブーフの子供時代の精神的虐待体験を描いた映画。シャイア・ラブーフ本人が書いた脚本は、若干の年代的相違はあるものの、彼が感じた父に対する思いをストレートに表現している。シャイア・ラブーフは、1998年のTV映画、『Breakfast with Einstein(アインシュタイン/ボクの犬は天才!?)』(日本ではTV放映)への出演が子役としての出発点。この時 9歳。2000年から3期続いたTVシリーズ『Even Stevens(おとぼけスティーブンス一家)』で一躍人気子役となる。この初期段階で13歳。シャイア・ラブーフは、映画の中では、オーティス・ロートという名前になっていて、子供時代のオーティス役を務めたノア・ジュープ(Noah Jupe)は撮影時13歳。だから、“1995年” という映画の設定を2000年だと思えば、事実とよく合致する。映画の中で紹介される3つの撮影シーンも、『Even Stevens』で似たようなシーンがあったとされるので、逆に言えば、なぜ1995年にしたかがよく分からない。このオーティスの父親が ジェイムズ〔シャイア・ラブーフの父はジェフリーで、似ている〕。彼は 売れないピエロで、家計は全面的にオーティスの出演料に頼っている。それがプライドの高い父にとっては悔しく、生活は荒れ〔アルコール中毒、マリファナ栽培〕、オーティスを支配しようとし、厳しく、時に無意味に辛く当たる。映画にはもう1つ時代が設定されている。それが “2005年”、19歳のオーティスだ。こちらを演じているのは、ルーカス・ヘッジズ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で2017年の第89回アカデミー賞助演男優賞の候補者になった若手の実力俳優(22歳)。青年のオーティスは、『トランスフォーマー』のようなアクションスターになっていて、共演の女性を乗せ、飲酒運転で事故を起こし、かつ、警官に暴言を吐いたことで逮捕され、施療施設に入れられ、カウンセラーからPTSDだと診断される〔原因は子供時代に父から受けた精神的苦痛〕。現実で、これに近いのは2017年の逮捕。ここでは、映画の設定と12年の開きがある。映画の中では、1995年と2005年が何度も交差する。➊01:01-06:04、②06:04-20:23、❸20:23-24:07、④24:07-36:25、❺36:25-39:48、⑥39:48-50:31、❼⑧❾50:31-49-54-51:00-06-11-15-23-27-32-38-54、⑩51:54-52:59、⓫52:59-58:15、⑫58:15-69:16、⓭⑭⓯69:16-21-70:01-11-18-71:47、⑯71:47-82:01、⓱⑱⓳82:01-06-39-45-83:11-21-38-46-53-84:03-09-48-85:19-25-33-40-46-50-56-87:23〔白丸は少年期、黒丸は青年期〕。❼⑧❾、⓭⑭⓯、⓱⑱⓳の3回は、小刻みに少年時代と青年時代が入れ替わって描写される。それ以外の部分では、少年時代の総計が59分40秒、青年時代の総計が17分26秒と、圧倒的に少年時代のパートが長い。ルーカス・ヘッジズの印象が非常に薄いのは、演技が単調なせいと、時間の短さの両方に起因している。シャイア・ラブーフ自らが演じる自分の “悪しき” 父親は青年時代の最後を除き、もっぱら少年時代に限られる。だから、この時代は、ノア・ジュープとシャイア・ラブーフの演技合戦となっている。シャイア・ラブーフの父の、非常に汚い言葉の連発は圧倒的だが、逆に見れば、いつも同じ調子で反省することがないので、ワンパターン。それに比べて、ノア・ジュープのオーティスは大方の評論家が特記しているように、感情表現が抜群に巧い。この演技で、ハリウッド評論家協会の「23歳以下の最優秀男優賞」「ハリウッドの次世代賞」、ラスベガス映画批評家協会の「若手男優賞」、ニューメキシコ映画批評家協会の「最優秀若手男女賞」を獲得しているが、このような賞とは関係なく、現時点で活躍している世界中の子役の中のベストの存在だと私は思っている。最初にその存在に気付かされたのは、『Wonder(ワンダー 君は太陽)』(2017)。この映画では、顔に乳児期の手術跡があるせいで虐められるオギーを演じるジェイコブ・トレンブレイにのみ注目が集まった。しかし、そのジェイコブ・トレンブレイは9つの賞にノミネートされたが、受賞はゼロに終わった。その陰で私が注目したのがジャック役のノア・ジュープ。彼が、シャイア・ラブーフと共演するということで、この映画を入手したが、期待は裏切られなかった。映画史上、10指に入る少年子役の名演だと確信する。残念なのは、監督の撮影法が、①顔のアップをせず、②常に明度が低いこと。①は如何ともし難いが、②はフォトショップで明るく加工することで、表情を分かりやすくした。

映画では、オーティスの少年時代のストーリーの展開に合わせる形で、青年時代の “PTSDの治療” の情景が短く挿入されるが、次のあらすじでは、少年時代に限定して紹介する。オーティスは12歳の人気子役で、TVのシリーズ番組で活躍している。オーティスには、過去に性犯罪で禁固歴があるため職に就けない父が、「付き添い」の形で給料をもらっている。そして、2人が暮らしているのは、ハリウッドの人気子役が住むには最も相応しくない場所。娼婦も住んでいる 長期滞在者向けの安モーテルだ。父は、オーティスの適正な “管理” をするどころか、台本を読んでいるのに、他の住人に怒鳴ったり、田舎のピエロだったことを自慢し、自分の “技” を教えようとして “邪魔” する一方で、平気でタバコを吸わせたりもする。オーティスにとって、心の支えにもなっていたボランティア団体のトムに対しては、嫉妬と人種偏見の両方から、激しい罵り言葉を浴びせる。子役という仕事と、愛のかけらもない父しかなかったオーティスは、偶然、一人の友達をつくることができた。それは、同じモーテルに住んでいた10代の娼婦。オーティスは、彼女に、5歳の時に離婚していなくなった母と、これまで一人もできなかった友達の両方を感じる。それでも、オーティスの日々のストレスは限界に達していた。ある夜、父が “可笑しな顔” をする練習を無理強いしたことから、オーティスの抱いていた不満が爆発する。そして、働いて稼いでいるのは自分で、父を養っているという現実を、父に自覚させてしまう。元々、負い目を感じていた上に、自尊心を傷付けられたことから、2人は大喧嘩。オーティスは、ますます落ち込む。それに、さらに輪をかけたのは、たまたまTVのワン・シーンで演じた役。そこに登場した “父” は、息子を心から愛する理想的な父だった。モーテルに戻ってみれば、そこにいるのは、何も構ってくれない父。オーティスは思わず泣いてしまう。その泣き顔を見た父との間で、オーティスは前回以上に激高し、父の「付き添い」役を解任すると叫ぶ。父は、言葉の暴力に対し、肉体の暴力で倍返しする。そんなオーティスを慰めてくれたのは、あの少女だった。帰宅して、息子と娼婦が一緒にいるのを見た父は、自分が そこまで息子を追い詰めたことに気付き、お互いに批判するのをやめようと提案する。ただし、その “新しい関係” の象徴として、これまで隠していたマリファナ栽培をオーティスに見せる。

ノア・ジュープ(Noah Jupe)は2005年2月25日生まれのイギリス人。2015年にTVシリーズ『ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~』(2016)に出演したのが、子役としての初登場(右の写真)。その後4つのTVシーズとTV映画を経て、『ナチス第三の男』(2017)の端役で映画に進出。『That Good Night』、『サバービコン 仮面を被った街』の後、『ワンダー 君は太陽』(世界興収3.0億円、IMDb8.0)に出演(ここまで2017年)。2018年はNetflixの『タイタン』のあと、『クワイエット・プレイス』(世界興収3.4億円、IMDb7.5)、『俺たちホームズ&ワトソン』の3本。2019年は、本作のあと、『フォードvsフェラーリ』(世界興収2.2億円、IMDb8.1)。今年5月には日本でも『クワイエット・プレイス PART II』が上映され、前作より役が重くなっている。こうして見ると、イギリスの子役なのにアメリカでの活躍がメインで、出演作には大作、ヒット作、高評価の作品が多く、さらに映画の内容が多様なことも特徴に挙げられる。ただ、主演が本作1つしかないのは、演技力の高さから考えても残念だ。私が一目で気に入った『ワンダー 君は太陽』で見せたノア・ジュープの笑顔を、次のYouTubeのPR映像(ダウンロード版なので、使用環境により読み込みに時間がかかる場合あり)で是非見て欲しい(→Wonder)。

あらすじ

映画の冒頭、破壊された旅客機の前に、一人の青年が立っている。そして、「ダメだ、よせ!」と叫ぶと、爆風で吹き飛ばされる(1枚目の写真)。ロープを体に縛り付け、俳優本人が吹き飛ばされるスタントを演じている。監督が、「カット!」と叫び、「★2005★」と記されたカチンコが年代を示す。これは、“シャイア・ラブーフの実ライフと映画との比較サイト” によれば、オプティマスプライムが映っていないだけで、如何にも『トランスフォーマー』の一コマらしいとのこと。スタントは、可能な限りラブーフ自身が演じていた。この青年オーティスは、ラブーフと全く顔が違うが、彼の青年時代を演じている。オーティスは自分のトレーラーに入ると、ウィスキーをガブ飲み。女性を横に乗せて運転中、口にくわえたタバコを 誤って落としてしまい、気を取られた隙に衝突事故を起こす。車は何度も回転し、逆さまになって止まる(2枚目の写真、長くぶら下がっている金髪は助手席の女優のもの、その右の短髪頭がオーティス)。その直後、衝突の連鎖の音が聞こえるので、多重事故を引き起こしたらしい。次のシーンでは、警官に後ろ手に拘束されたオーティスが、「触るんじゃない! ガタガタうるさいぞ! 俺が何したってんだ? 俺が何様か知ってるのか?! このクソ野郎どもが!」とわめき、拘置所に入れられた後も、汚い言葉で叫び続ける。その後の司法判断は映像化されず、オーティスは施療施設に連れて行かれ、カウンセラーの女性から、これが警官に対する飲酒の上の3度目の騒動なので 施設での4年間の矯正が課せられたと説明を受ける(3枚目の写真)。オーティスはカウンセラーからノートを渡され、トラウマの原因を探るため、思ったことを書くよう指示される。さらに、トラウマを抱えたことで、今のオーティスはPTSDと診断される とも告げられる。オーティスは、カウンセラーの言葉に対し、「違うよ。そんな、どこで?」と意外そうに訊く。そして、『ハニー・ボーイ』の標題が表示される。あたかも、これから、“本人も意識していないトラウマ” の原因解明が始まる、といった具合に。

映画のオープニングと同一パターンで、一人の少年が立っている。そして、目を閉じて構えると、パイが顔目がけて飛んでくる。顔を直撃すると同時に、後ろに引っ張られ、背景の家が見えてくる(1枚目の写真)。監督が、「カット!」と叫び、「★1995★」と記されたカチンコが年代を示す。オーティスの少年時代も、青年時代と同じようなスタントをしていたという設定が面白い。顔中クリームだらけになる分、こちらの方が悲惨だ(2枚目の写真、目が見えるよう、アクションが済んでから自分で拭き取った)。オーティスは、顔をきれいにしてもらうと、“ロープを留めるためのステンレスリングが背中に固定されたチョッキ” を着たまま、携帯式のCDプレーヤーで音楽を聴き始める(3枚目の写真)。

オーティスは、そのままスタジオの奥の暗い隅にいる父親の方に歩いていく(1枚目の写真、矢印はステンレスリング)。父は、そこにいる女性に、自分の “ピエロのショーで使うニワトリ” の自慢話をくどくどと話している。だから、オーティスが、「パパ、背中を緩めてくる?」と頼んでも、話をやめようともしない。「…俺は、鶏を頭に乗せたまま逆立ちする。鶏は俺の頭から尻まで走るんだ…」。延々と続く話の間、オーティスは背中を向けて、緩めてくれるのを待っている(2枚目の写真)。父は作業を始めるが、話すことに夢中なので手間取り、オーティスは思わず、「まじ〔Fuck〕痛いよ、パパ!」と叫ぶ。そのFワードを聞いた父は、「今、俺に何て言った?」と訊く。「そんなつもりじゃ…」。「どんなつもりでも許されん。パム〔女性の名〕に謝れ」と叱る(3枚目の写真)。オーティスは、「ごめんなさい、パム」と謝る。そもそも、父が下らない話をしている間に、一家の生活費を稼いでいる息子が 苦しいからと頼みに来ても、ニワトリの話にやめようとしなかったくせに、「まじ〔Fuck〕」ぐらいのFワードでこれほど文句を言うとは、異常に思える〔後で、ボロ・モーテルに戻ると、父親は下品なFワードを連発する〕

オーティスは、父のバイクに乗り、スタジオを出る。オーティスは、バイクに乗せてもらうのが好きだ(1枚目の写真)。夕方に近いので光が黄色い(2枚目の写真)。そして、着いた先は、ハリウッドにあるとは思えないような おんぼろモーテル(3枚目の写真)。住民の質も悪く、娼婦もいる。

真面目なオーティスは、すぐに次の出演に備えて台本を読み始める(1枚目の写真、矢印は台本)。すると、向かいの棟のドア横のイスに座っていた10代娼婦に、太ったおばさんが、「誰と話してたんだい?」と責めるように、大声で訊くのが聞こえてくる。さらに、「そんなの着ていいと誰が言った?」。「他のはみんな汚れてたから」。「着替えるんだよ。シャワーしてから 洗濯おし」。それが耳に入った父は、洗濯乾燥機には自分のものが入っているから10分待てと叫び、スペイン語で、「くたばれ!」と罵られる〔相手はメキシコ人〕 。父は、モーテルのコインランドリーに洗濯乾燥機の数が少ないことに一人でブツクサ。すると、オーティスがトイレに入り、小便を始める。その音を聞いた父は、「なんだ、その ちょろちょろ? ユダヤのガキ〔離婚した母はユダヤ人〕のは そんななんか? お袋に感謝するんだな。ゴルフ鉛筆みたいなチンポもらって」と、くどくど辱める。オーティスが、「ちゃんと用は足せる」と反論すると(2枚目の写真)、「そうか、『用は足せる』か。そんなもんで、いったいどんな用が足せると思うんだ?」。「女の子」。「そうか、『女の子』か。そんなもんじゃ、自分だってヤレんぞ。今、タマの上にしょんべんこぼしたんじゃないか?」。「僕12だよ」。「そうか、12歳のチンポか。俺が12だった時、しょんべんの勢いはこんなだったぞ」。そして、実際にしてみせる。「聞こえたか? すごい 音だろ? これが俺のルーツ、血筋なんだ」〔父はフランス系〕。この長々と続いた下らない言葉のあと、トイレから出た父は、台本を読んでいるオーティスの頬を叩き、「俺の話なんかどうでもいいんだろ。このグズ野郎。今、俺が何て言った? 何も聞いとらん。何て奴だ。この自己中め」と罵る(3枚目の写真)。この後も、父親は、オーティスが読んでいる台本と、先ほどやったパイ投げについての持論をくどくど述べる。このシーンから分かることは、父親が、最低の人間であること。酌量の余地は全くない 。

そのうち、向かいのメキシコ人がコインランドリーに行くのが見えたので、父は大声で止める。オーティスに、「コールシート〔撮影予定表〕とバッグを寄こせと命じ、予定表を見ながら、「朝の6時だ。今夜は早く寝ろ」と言う(1枚目の写真、父が手に持っているのが予定表、オーティスが肩にかけているのは 洗濯物を入れるネット・バッグ)。「うん、もちろん」。そして、ひと呼吸置くと、「あのね、A.J.がドジャースの切符をくれたんだ。ノモが投げるからすごくクールだよ」と、明日の撮影の後だと念を押す。「誰が投げるって?」。「ノモ」。「それが名前か?」。「トルネイドのノモだよ」(2枚目の写真)〔日本語のトルネード投法が英語になった〕。「トルネイドってのは、最悪の名だな。そいつは、目隠しして三振させるのか? “日本人の目隠し” っての 知ってるだろ? 靴紐だ」〔靴紐で目隠しできるくらい目が細いという意味/この父親は、いわゆる “底辺の白人貧困層” で、人種差別主義者でもある〕。コインランドリーに入った父親は、「もう一つ、面白いジョークを話してやる。“Sum Ting Wong” ってのは知ってるか?」と言う〔Something Wrong(なんか変だぞ)を韓国風に発音したもの〕。オーティスは、父のいつもの下らない話は耳を素通りするが、くすぐられて思わず笑う(3枚目の写真)。そのあと、右上の乾燥機の中に入っている衣類と靴下をネットに入れる。「で、A.J.と試合に行くのか?」。「うん」。「誰が運転する?」。「A.J.」。「そうじゃないだろ。あいつは、まだ14だし、両親はキャスティーク〔ロスの北西約50キロ〕に住んでる。誰が運転する?」。「トム」。「トムがお前を連れてくのか?」。「うん」。「なら、なぜそう言わん?」。「ごめん、パパ」。「何を」。「嘘ついたこと。叱られると思ったから」〔トムは大人。後でボランティア団体のメンバーで、オーティスの面倒を見ていることが分かる。だから、オーティスにとっては “メンター” 的な存在で、それが父には気に食わない〕

部屋に戻った父は、「靴下を5つ出せ」と命じる。「2つはお前が持て。落としたら、腕立て伏せ10回だ」。2人は、丸めた靴下を使って交互に3個のジャグリング(お手玉)をする。オーティスは、「覚えてる? 僕にツリーハウス作ってくれるって言ったよね」と言う。「木なんか持ってないぞ。木を買え。そしたら、作ってやる」。ここで、オーティスが靴下玉を落とす。「ごめん」。ジャグリングを再開し、「ミーティングには行くの?」と訊く〔12-step meetings(アルコール依存症のプログラム)のこと〕。「ああ」。今度は、父が落とす。「あいこだな」。次にオーティスが落とすと、そこで中止し、その場で腕立て伏せ10回。部屋が如何に狭いかよく分かる。腕立て伏せをしているオーティスに、父は、「お前の相棒のトムに会って、そいつが “chicken hawk(少年をあさる同性愛者)” じゃないか確かめる」と言い出す。「違うよ」。「だが、俺は違うかどうか知らん」。「僕を信頼してよ」。「お前こそ俺を信頼しろ。なぜ会えんのか分からん」。「ママが言ったんだ、パパは怒り出すって」。「お前のお袋は でらためを一杯考えてるからな」。「ママは、いつだって僕をサポートしてくれるんだ〔She's always been there for me〕」。この言葉は父を怒らせる。「誰が、お前を朝の4時に起こしてやってると思う?」。これには、オーティスも反論する。「ママは忙しいんだ。仕事があるから」(2枚目の写真)。父は、自分が無職で、息子に頼って生きているので、もっと頭にくる。「何で忙しい? 何で仕事をする? よく考えろ。お袋は何のために働いてる?」。「万が一のため〔Just in case〕」。「どんな時だ?」。「知らないよ」。「お前が失敗した時だ。ダメになっちまった時だ。あいつは、そんな恐ろしいことを考えてる。俺がそんなこと考えたと思うか? 俺はお前に力を吹き込んでるぞ。俺たちはチームだからだ。お前はめちゃすごいスターだ。だから、俺はここにいる。俺はお前のチアリーダーなんだ、ハニー・ボーイ」〔映画の題名のハニー・ボーイは、父の精一杯の愛情表現だったと、シャイア・ラブーフが述べている〕。「信じるな?」。「うん」(3枚目の写真)。

「物々交換〔horse trade〕だ。お前にタバコを1箱やる。彼〔トム〕に会わせろ。吸う時は洗面所だ。他の連中にクソ親爺だと思われたくない」。「誰も、そんなこと思ってないよ」。「お前のお袋はそう思ってるぞ」。「パパの思い込みだよ」。「トムもそう思ってるぞ」。「思ってないって」。「お前がビッグブラザーズ〔Big Brothers/兄のような存在として、一緒に悩み、一緒に学び、一緒に楽しむボランティア活動〕のプログロムに なぜ入らされたか知ってるか? 俺がクソ親爺だからだ。お前のお袋が、俺がそうだと、触れ回ったからだ」。これだけ言った後で、父は再びトムに話題を戻し、「奴をここに連れて来い。これは どうだ? バーベキューで奴をもてなす。まずは第一歩だ。種をまくだけ。俺もちょっとだけ混ぜろよ」〔トムは、ビッグブラザーズの関係者〕。「バーベキューだけだね?」。「ああ」。オーティスは、笑顔になり、タバコの箱を受け取り、「いいよ」と合意する(1枚目の写真)。「ありがとよ」。「来ないかも」。「試すだけでいいんだ」。父が出て行くと、オーティスは、箱から1本取り出し口にくわえるが(2枚目の写真)、どこにも火を点けるものがない。そこで、タバコを口から取ると、耳に挟む。夜、TVで、父がピエロを演じている画像が流れる。これは、①現実なのか、②自慢の種のビデオ録画なのか、➂過去あったことをTV放映の形で映像紹介しているのか〔TVで紹介されたことは一度もない〕の何れかは不明。ピエロは、ニワトリを帽子に乗せた状態で登場する(3枚目の写真)、ピエロがゆっくりと頭を下げて行くと、ニワトリは背中を歩き、ピエロが逆立ちするとお尻の上に移動する。ピエロは、「ヘンリエッタ・ラフォール、世界一命知らずな鶏!」と叫ぶ。これしか技がないとは、何と哀れな人生。

翌日、父より早く起きたオーティスは、ドリップ式のコーヒーメーカーで2人分のコーヒーを入れ、父の分のカップは、まだ寝ているベッドの脇に置き、1人で出かける〔朝の4時に起こす云々は全くの嘘〕。オーティスは、出番が終わった後、スタジオのトレーラーでも、コーヒーを飲む(1枚目の写真)。ここでシーンが変わり、父が、清掃係のチョッキをはおり、高速道路沿いの清掃をするフリをして、雑草を刈っている(2枚目の写真)。地面を剥き出しにして整地した後に、マリファナの種を蒔く。オーティスは、誰も来ないことを確かめると、こっそりタバコに火を点ける(3枚目の写真)。

夕方になり、オーティスが帰ろうとすると、電動カートの女性が、「乗ってく?」と声をかける。「パパが、さっき、バイクで迎えに来てたよ」(1枚目の写真)。「そうなの? 今日は、まだ見てないけど」。「もう、来てるよ」。「そう。今日は頑張ったわね」。「ありがとう」。オーティスが乗らないのは、①モーテルを見せたくないのか、②父がこれから迎えにくるからなのか、分からない。暗くなり、どうやって会ったのかは不明だが、オーティスと父は、フードトラックに寄って行く。オーティスは、「僕、チキン・タコス」と言ってお金を渡す(2枚目の写真、矢印はお金)。出来上がるのを待ちながら、父は、「時々、俺がお前だったらよかったにと思うよ」と言い出す。「そうなの」。「有名になって、無数のフラッシュを浴びて、パパラッチや女の子に追っかけられるんだ。俺たちのモーテルにいるみたいな娼婦じゃなくて、ちゃんと学校に行ってるまともな女性だ。ドリー・パートンみたいな」。それを聞いたオーティスがほほ笑む(3枚目の写真)。「何が可笑しい? テーマパークだって持ってるんだぞ」〔テネシー州の遊園地ドリーウッド〕。その夜、父は、向かいの棟のイスに座った10代の娼婦に向かって示威行動に出るが、相手は呆れて部屋に入ってしまう〔卑しい人間性がよく分かる〕

そして、翌日か翌々日、オーティスは、トムのピックアップトラックに乗せてもらってモーテルに来る。降りる前の車内では、オーティスが、「パパは、ビッグブラザーズのプログラムが嫌いなんだ。だから、その話は持ち出さないで〔don't bring that up and stuff〕と、トムに頼む(1枚目の写真)。「OK」。「なら、大丈夫」。そして、部屋の前で待っていた父に、「やあ、パパ」と陽気に声をかける。初顔合わせの雰囲気は上々。トムが乗ってきた65年型のフォードF-100、352cu〔5.8リットル〕のV8エンジンという車に話題が集中する。水泳着に着替えてきたオーティスが、バーベキューの用意してあるプールサイドに向かって歩き始めると、2人もついて来る(2枚目の写真)。後ろの2人は仲良く話し合っている様子なので、オーティスも一安心。オーティスは、プールサイドに座る(3枚目の写真)。すると、父がすぐに、「ソーダを買ってきてくれ、ケチャップもだ」と頼む。そして、父は用意しておいたバーベキューを焼き始め、蓋を閉める。

オーティスが、自販機の置いてあるコインランドリーに入って行くと、10代の娼婦が太ったおばさんに叱られ、最後には、「お前の顔なんか見たくない」と言って、取り残される。オーティスは、娼婦がおばさんに投げ捨てられたサンダルを拾ったのを見て、「ねえ、僕、そのジェリー〔jellies/透明の色つきビニールサンダル〕好きだな」と声をかける。“jellies” にはお菓子のゼリーの意味もあるので、彼女には分からない。そこで、「君の靴だよ」と言い、「僕は、オーティス」と自己紹介する。「僕、向こう側の6部屋の1つに住んでる」と指しながら、握手(1枚目の写真)。相手は、「Shy Girl(恥ずかしがり)」と通称を教える。そして、握手でつかんだ手を使って、いわゆる “指相撲” を始める。オーティスは、そんなことをされるのは初めてだったので、思わず笑顔に(2枚目の写真)〔ノア・ジュープは笑顔がよく似合う〕。ソーダ缶を自販機で買った後、Shy Girlがタバコがなくて困っているのを見ると、「ここで待ってて」と声をかけ、タバコをもらいに戻る。父はトムから、①デトロイト出身、②両親と双子の妹がいる、③ミシガン州のカルヴァン・カレッジを卒業した、ということを聞き出す。「カルヴィンとはすごいな、金がかかったろ?」。「少し援助を受けた」。「だろうな。いったいどう工面した? 貧しいメキシコ野郎が、入学するなんてさぞや大変っだったろ?」。父の人種差別の偏見が現れ始める〔トム役のClifton Collins Jr.は、以前紹介した『The Perfect Game(ザ・パーフェクト・ゲーム)』で、メキシコ人のコーチを演じた〕。ここで、幸いオーティスが来て危うくなりかけた会話が中断される。オーティスは、ガーデンテーブルの上にソーダ缶2個を置くと、トムに「大丈夫?」と訊く。「大丈夫だ。ありがとう、オーティス」。父:「ケチャップは持ってきたか?」。「タバコ1本くれる?」(3枚目の写真)。タバコをもらったオーティスはShy Girlに渡しに戻る〔そのシーンはない〕。父:「息子が好きだ」。トム:「彼は、いい子だ」。「そりゃどうも」。ここで、トムは致命的な過ちを犯す。オーティスに「持ち出さないで」と言われていたのに、「だから、ビッグブラザーズのプログラムが とっても重要なんだ。俺が受けた親切を、次につなげられる」と、言ってしまう。父:「あんたには感謝するよ、トム。あいつも感謝してるしな」。「嬉しいね」。「あいつは、あんたを好いてる。顔に出てる」。この、いつもの父親らしくない言葉のあと、「俺が、今、あいつんとこに行き、大きくなったら何になりたいかと訊いたら、俺だとは絶対言うまい」と、さらに踏み込む〔不気味〕。「絶対?」。「ああ」。「なぜ?」。「あいつ、あんたに話してない?」。父は、アルコール依存症のプログラムで「4年間しらふを通してる」と打ち明ける。「それはいい」。「いい?」。「すごい」。「すごいことか?」。「ああ、すごい。俺は、破滅した人生をたくさん見て来たから」。「そりゃまた、辛いな」。「想像するしかないが」。ここで、父は豹変する。「じゃあ、今日が実体験1日目だ。あんたが俺について何を聞いたかは知らん。だが、何を聞いてないかは分かる。いいか、あんたが聞いてないことだ。どんな理由があろうと、今度 俺のガキにちょっかいを出してみろ。スカルファックでケリをつけてやる。あんたの棺の上に双子の妹の死体を寝かせ、メキシコ野郎の脳みそに、俺のチンボを突き刺すぞ」。トムは、ムッとして立ち上がる。父:「ここは、暑いだろ。その邪魔な上着を脱げ」。父は、トムの背中に回って上着を引っ張ると、自分の体を軸にして180度回転させ、「この、クソッタレが!」と叫びながら。、プールに突き落とす(4枚目の写真)。父親の異常な人格が表面化するシーンなので、会話の流れを詳しく紹介した。

それから日は流れ、高速道路脇のマリファナの種が、自動散水で芽吹く。いつものようにスタジオから父のバイクでモーテルに戻った日の夜、母から電話がかかってくる。このシーンは重要だが、非常に複雑なので、話し手を色分けし(黒:オーティス、:父、赤茶:母)、誰に向かって話しているかは、台詞の最後に色付きの▶で明示する。「やあ、ママ」。「あなたが取ってくれてよかったわ▶」。「元気してる?」。「ええ。うまくいってるの?▶」(1枚目の写真)。「うん、調子いいよ、ありがとう。僕がセットにいた時、ウォルシュさんが来たんだ。『今週のおススメ映画』に出てみたいかって訊かれた。撮影は2~3ヶ月したら、バンクーバー〔カナダ〕でだって」。「お父さんは、出国できるの?▶」。「そう思うけど」。「同行できるの? だって…▶」。「できると思うよ。ちょっと待って、訊いてみる」「ママが知りたがってるよ。パパが出国できるかって」(2枚目の写真)。「何でそんなこと訊く?▶」。母に何か言われ… 「あのね、前科があるからだって」。「そんなことは先刻承知だ! 何で12歳に、そんなこと訊かせる!▶▶」(▶▶は、電話に向かって怒鳴る)。母に何か言われ… 「訊いてみる」「ママと直接話したい?」。「まさか! 誰が話したいなんて思う?!▶」。「ママとは話したくないって」。「金輪際だ!▶」。「分かった。じゃあ、あなたのパスポートはトムに取ってもらいましょ▶」。「そう? そりゃいいや」「ママがね、パスポートはトムに頼むんだって」。「そりゃ大したもんだ! トムがやるだと? あのくそったれが!▶▶」。「お父さんが、子供みたいになり出したら…▶」。「あのクソアマ、俺を怒らせやがって」(独り言)。母に何か言われ… 「そう言えばいいの?」。「そうよ▶」。「やってみる」「『あなたのことは、ずっと前に許したわ、ジェイムズ』」。「誰に話してる?▶」。「『私は、レイプされかけても、車から飛び降りるようなタイプじゃない』」。「何だと、犠牲者ぶりやがって▶」。「『何だと、犠牲者ぶりやがって』」。「いつだって、誘ったのはあいつだ! そう言え▶」。「『いつだって…』」。「あなたは、生涯で最愛の人よ▶」。「『あなたは、生涯で最愛の人よ』」。「なら、態度で示せ、このスベタ!▶▶」。「『私が、どんな思いしたか、知ってるの?』」。「『どんな思い』だと、クソッタレが! 俺をこんなに追い詰めやがって!! 何で電話なんか かけてきた?!▶▶」(3枚目の写真)。母に何か言われ… 「『私はいつだって…』」と伝言を言いかけたところで、父がオーティスを引っ叩き、受話器を取り上げ、「出てけ!▶」と怒鳴る。受話器をガチャンと置いて電話を切った後、「俺がやってること分かってるのか? 毎日、危ない橋を渡ってるんだぞ! 坊主のために!」と一人でわめき続ける。部屋から外に出たオーティスは、寂しそうにそれを聞いている(4枚目の写真)。なぜ、オーティスがトラウマになったのか、父の “暴行ではない虐待” がどのようなものだったかが、よく分かる。多くのレビューが高く評価している場面だ。

父親の心ない言葉に打ち砕かれたオーティスは、怒りを廃車置き場の車にぶつける。煉瓦をフロントグラスに投げつけ(1枚目の写真、矢印)、縁に残ったガラスの破片を木の枝で突く。火を点ける前のタバコの匂いで気を静め、廃車の上に横になってタバコをふかす。オーティスは、誰もいない夜のプールサイドで 悲し気に佇んでいるShy Girlを見つけると、近づいていって話しかける。「あれ何だろ?」〔水面を蛇が泳いでいる〕。「あんたは、水の上を歩けるのよ。誰かが、そんなのできないと言うまではね。言ってること分かる?」。「うん」。「ねえ、寒くない?」(2枚目の写真)。そう言うと、Shy Girlはオーティスを抱き寄せる(3枚目の写真)。孤立し、虐げられた者同士が心を通い合わせた瞬間だ。

オーティスは、Shy Girlを自分の部屋に連れて行く。2人は、2本の手を重ねては、叩き合って遊ぶ(1枚目の写真)。Shy Girlは、TVで観ていてファンなのか、純粋にオーティスの笑顔が気に入ったのか、愛しい子供にするように、頬に手を当てる。そして、頬にキスをする(2枚目の写真)。オーティスも、Shy Girlのまぶたにキスをする(3枚目の写真)。

オーティスはシャツを脱ぐと、ベッドの上で、Shy Girlに優しく抱かれる(1枚目の写真)〔セクシャルな意味は一切ない〕。オーティスは、体を離してShy Girlの顔をじっと見つめると(2枚目の写真)、サイドボードからお金を取り出し、Shy Girlの手にお札を握らせる(3枚目の写真)〔恐らく、Shy Girlを支援するため〕。翌朝、再び廃車置き場に行ったオーティスは、ボンネットの上に乗ると、持っていた木の棒を振り上げ、天に向かって叫ぶ(4枚目の写真)。

シーンは切り替わり、スタジオのトレーラーで、父とカードゲーム「ジン・ラミー」をしている(1枚目の写真)。父は、「弱いフリしてるな。Jと9を持ってるだろ。9を出せよ」と言い、オーティスは「持ってたら、出してるよ」と言う〔実は、9を3枚持っている〕。「いいや、持ってる。お前の手札なんか お見通しなんだ。そんでもって、俺は9がどうしても欲しい」。「無理だね」。オーティスはジンを宣言し、手札をテーブルに拡げる。父は負けて面白くない。点数を付けた後、オーティスが「僕、上手くなった」と嬉しそうに言うと、「嘘ついてるからだ」と負け惜しみ。「嘘を覚えたから」。「それを堂々と使うとはな」。「みんなそうさ」(2枚目の写真)。「俺は違う」。「してるよ」。「しないぞ」。「それも、嘘だ」。「言っとくがな、俺は何でもするが、嘘だけはつかん」(3枚目の写真)。オーティスは、確かめてみようと、「なぜ、僕の手を握らないの?」と、かねがね疑問に思っていたことを訊く。「小児性愛者だと思われたくないからだ」〔父親なのに?〕

高速道路際に蒔かれたマリファナは、今や50センチほどに伸びている。スタジオでは、オーティスが、バスローブ姿のパーマおばさんの役をこなしていると、カメラの前に父親が現れ、「なめるなよ。いったい誰の責任だ」とスタッフに文句を言い、カメラのスイッチを切る。「知るか。終わりだ」。オーティスも異変に気付く(1枚目の写真)。父は、拍手をしながら居間のセットに入ってくると、オーティスの服を拡げ、「さあ、行くぞ」と命令する(2枚目の写真)。「着替えに、さらに20分かかるんだぞ。今日は、学校に3時間は行かないと。あんた、あと10分で終わると言ったのに、もう30分も経った。ちゃんとした時計を持たせとけ!」。オーティス:「まだ、撮り終わってないよ」。「知るか。来い」。ドアをバタンと開ける。「来い」(3枚目の写真、矢印はオーティス)。そして、大声で怒鳴る。「児童労働法だ!」。動機は正しいが、やり方は異常だ。

深夜近くの寝室で、父はオーティスの演技指導をする。「いいか、お前のは 視覚に訴えるギャグなんだ」(1枚目の写真)「それが成功の鍵だ。可笑しな顔なくして笑いはない。だから、可笑しな顔をする練習をしろ。息を吸う時、鼻を膨らませるんだ。見てろ」。父は鼻を膨らませて見せるが、冴えないし、オーティスも「可笑しくないよ」とはっきり言う。「どこが?」。「鼻だよ」。「俺は大好きだ。すごく面白い」。「分かったよ」。次いで、オーティスは腕立て伏せをさせられる。「息が上がっちゃうよ。こんなことしたって…」(2枚目の写真)。「何だ?」。「TVじゃ、こんな場面ないよ」。「息が上がろうが、可笑しい顔ができさえすればいい」。「僕は、そんなのイヤだからね。分かった?」(3枚目の写真)。父は、次に、腕を振り回して叫ばせるが、下手なピエロがやるような大仰な仕草などを教え込めば、せっかくの人気子役がダメになってしまう。

この後、モーテルの向かいの棟で、娼婦4人と元締めのおばさんが集まってワイワイ騒いでいるのが、父の癇に障る。そこで、ドアを開けると、「真夜中の12時だぞ! 静かにできんのか?! 移民局を呼ぶぞ!」と大声で怒鳴る。父がドアをバタンと閉めると、今度は、おばさんがドアを乱暴に叩き、2人の間で激しい口論が始まる。TVの出演料は結構多いだろうに、この最低の父親は、娼婦の巣のような安モーテルに、なぜ息子を住まわせるのだろう? なお、これは映画の上での作り事ではなく、シャイア・ラブーフも、子役時代を このような安モーテルで過ごしたという。さて、怒鳴り合いが終わると、父は、「準備はいいか?」とオーティスに演技の再開を促す。「休もうよ」。「休む必要なんかない。演技を自分のものにしろ。やるぞ」。「休みたい。もうできるから」。「ロクにできんじゃないか」。「もうできるよ。終わりにしよう」。「俺を笑わせられるようになるまで、OKは出さんぞ」。ここで、オーティスが、「なら、タバコよこせよ」と荒っぽい口調で言い、父は、タバコに火を点け、オーティスに向かって投げつける。タバコはオーティスの髪に当たる。「くれてやったぞ。満足か? じゃあ、始めるぞ、フォントルロイ〔小公子ではなくドナルドダックのこと〕。ほら吸わんか」。父の態度に怒ったオーティスは、床に落ちたタバコを放置する。「絨毯に穴を開ける気か? 賠償はお前がやれよ」。オーティスは、キレて本音をぶつける。「パパのためを思って “お目付役〔chaperone〕” でお金もらってるの忘れたの?」(1枚目の写真)。「俺のためだと?」。「重罪犯〔felon〕は誰も雇わないでしょ? 僕はバカじゃない」。「そんな言い方は気に食わん。俺がお前に雇われてるみたいな言い方もだ」。それに対するオーティスの決定的な言葉。「雇われてるよ。僕がボスだ」。「何だと? あと一言でも何か言ったら、俺はブチギレるぞ。何様のつもりだ。俺は、ここにいなくたっていいんだ。一瞬で消えてやる。一週間で1万ドル稼げるんだ」。「ここにいてよ」。「黙れ。口をきくなと言ったろ」。それでも、オーティスが「ここに…」と言いかけると、父は、「うるさい! 口を閉じてろ!」と怒鳴り、息子をベッドにねじ伏せる。「一言でも言ってみやがれ!」。「ここに…」(2枚目の写真)。「この自惚れ野郎が! 黙れ! 分かったか?!」。オーティスは、それでも、「ここにいてよ」と繰り返す。「いて欲しいのか?」。「そう」。「なら、何で いて欲しいか、理由を言ってみろ」。「パパには いい本能がある」。「いい本能か? そいつは ピエロの本能だ。だから、ハリウッドじゃコケて、ヤリまくっちまった」。「もし、僕みたいに小さい時から始めてたら…」(3枚目の写真)。「そしたら、どうなってたと思う? どうせ、パイ投げや腕立て伏せのチャンピオンだ」。この言葉で、父が、自分には何の才能もないと思っていたことがはっきりする。オーティスの涙は、そんな父に対する “哀れみ” と “悔しさ” の混ざったものだ。だから、父は、「顔を拭え。俺の前で泣くな」と言い、さらに、「俺は、もう、何も口を出さん」と態度を改め、最後に、懺悔をするように、「お前を見てると、イライラするんだ」と、自らのふがいなさを告白する(4枚目の写真)。

オーティスが スタジオでTVドラマを演じている。役どころは、すごく裕福な少年。豪華な食事を前にして最高級の毛皮のコートをまとい、後ろには正装した執事が控えている。オーティスが片方ずつ手を上げると、執事がナプキンで拭う。そこに、半袖のラフなシャツを着た父親が来て座り、「すごい ごちそうだな、ジェフ」と驚く。“ジェフ” は、「ロイストンのお陰だよ」と言うと、指をパチンと鳴らす(1枚目の写真)。すると、背後に立っていた執事が、“ジェフ” の肩を揉み始める。父:「ありがとう、ロイストン。実に素晴らしい」(2枚目の写真)。父は、なぜ呼ばれたか分からないので、「どうかしたのか?」と訊く。“ジェフ” は、「ああ、そうだった。ほら。新しいお家の鍵だよ。取って」と、鍵の束を渡す。これが、どういうシチュエーションなのかは、分からないが、父は、執事を去らせ、2人だけになると、家を去る気がないと告げる。“ジェフ” は、生意気そうなサングラスを外すと、「じゃあ、ここにいるの?」と尋ねる。「もちろんだ。ここに、お前をロイストンと2人で置いておくと、本気で思ってたのか?」。「僕… もう愛されてないと思ってたから」。「何と… 私は、お前を愛してるぞ、ジェフ。言葉では言い表せないくらい愛してる」。この言葉は、単なるTVドラマの中の “仮想の” 父親から出た言葉なのだが、「お前を見てると、イライラするんだ」と言われたばかりのオーティスにとってみれば、胸にぐっとくる言葉だった(3枚目の写真)。監督は、この心拍の演技に大満足。

“ジェフ” のドラマがTVで放映され、それをベッドで横になった父が観ている。オーティスは、キッチンの窓辺に座ってそれを見ている。オーティスは、幻の父の言った言葉が忘れられない。そこで、こんなことが言えたらなと思う。だから、次のシーンは、オーティスが心の中で言ってみたかったこと。「パパ? 聞いて欲しいんだ」(1枚目の写真)「言わなくちゃいけないことがあるんだけど、話し終わるまで遮ったり出てったりしないで欲しい。いい?」。現実には、父は寝転んだままだ(2枚目の写真)。空想の会話は、まだ続く。「いつか、トムのこと話したよね。それで、考えてみたんだ。パパと僕の間で、何か楽しいことがあったかなって… 正直に言うけど… 僕は、パパが、“ホントのパパ” みたいに振る舞ってくれるのを、ずっと待ってたんだ。一度もしてくれなかったけどね」。オーティスは、寝ている父の耳のそばで、「ずっと、寂しい思いをしてきたんだよ、パパ」と囁く。すると、父は息子を見て、TVと同じ台詞を囁く。「私は、お前を愛してるぞ、ジェフ。言葉では言い表せないくらい愛してる」(3枚目の写真)。

この仮想体験で悲しくなった、オーティスは涙を流す(1枚目の写真)。すると、息子が立っているのに気付いた父が、顔を上げて「何だ?」と訊く(2枚目の写真)。オーティスは両腕で涙を拭う。「おい、どうした?」。オーティスは立ち上がると、父の前まで行く。「何を泣いてる?」。「泣いてないよ」。父に 名を呼ばれたオーティスは、「トム」と答える。「トムは、僕らのパスポートの手配をまだ続けてくれてるんだよ。イラマチオで脅された後でもね」。「そうか…」。「あんたは性犯罪者で、トムは連邦職員だ」(3枚目の写真)。「俺をイライラさせやがったから…」。罪の意識ゼロの父に頭に来たオーティスは、父に「うるさい、黙れ!!」と怒鳴りつける(4枚目の写真)。父は、低い声で「俺に、そんな口をきくな」と言い、それに対し、オーティスは、再び、「最後まで話させろ!!」と怒鳴る。「声が大きい」。何の反省もない、抑えた口調は、底に秘めた苛立ちの現れだ。

オーティスは、怒鳴るのをやめると、諭すように、「もっといいパパになって欲しい。だから、誓って欲しい… 小指を立てて… 約束するんだ、まともになるって」と話しかける(1枚目の写真)。父は、軽い気持ちで小指を立て、「まともになる」と言う(2枚目の写真)。それを見て、父には反省のかけらもないと悟ったオーティスは、手を払いのけ、「ジョークじゃない。これは、あんたご自慢のバカげたジョークじゃないんだ!」と、切り捨てるように言う。「なら、何なんだ?」。「契約 打ち切りだ」(3枚目の写真)。

「『契約 打ち切りだ』と? 聞いたから言ってやる。お前は、いい父親を欲しがってる。いろいろ教えてくれる父親。そうだな? なら叶えてやる。俺も、頑張るからな」(1枚目の写真)「今すぐ、新たに始めよう。レッスンその1。賢い奴なら知ってるだろ… ボスに 一発食らわしたら…」。父は、いきなり立ち上がると、オーティスの頬を思いきり引っ叩く(2枚目の写真)。「二発目も食らせろ」。もう一度引っ叩く。オーティスは痛くて泣き出す。「二度とあんな口をきくな」。「あっちへ行け!」。「喜んで」。嘘と暴力の父は、そのまま部屋を出て行き、オーティスはベッドで泣き伏す(3枚目の写真)。

オーティスは、父のいた部屋などにいたくないので、泣きながらモーテルの駐車場を彷徨い歩き、いつしか座り込む(1枚目の写真)。しばらくすると、オーティスに気付いたShy Girlが、背後からそっと忍び寄り(2枚目の写真)、はおっていた薄いローブをオーティスの頭にかぶせる。それがShy Girlだと分かると、オーティスは彼女に抱き着く。2人は、手を取り合ってダンスをし(3枚目の写真)、そのあと、オーティスが幻の野球ボールをShy Girlに持たせ、幻のバットで打とうとして遊ぶ(4枚目の写真、Shy Girlの手の黄色の◯は空想のボール、オーティスの手から伸びる黄色の線は空想のバット)。オーティスにとってShy Girlは、母親でもあり、友達でもある。空虚な心を埋めくれるのは、彼女しかいない。背後に流れる物悲しい曲は、アレックス・エバートの『Glimpses』。

2人は、そのままオーティスの部屋に行き、ベッドで寝てしまう。そして、朝になり(1枚目の写真)、父のバイクの音で目が覚める。ドアは1つしかないので、Shy Girlが逃げることはできない。2人でベッドを整え、父が入ってくるのを待つ。父は、ドアを開け、中にバスローブ姿のShy Girlを見て驚き、「ここで何してる?」と訊く。「息子さんの世話よ」(2枚目の写真)。「お前、息子とファック〔セックス〕したな?」。Shy Girlは首を振り、「あんたが息子をファック〔ボロボロに〕したのよ」と、静かに反論する。父は、「出て行け、このアバズレ」と言いながら頬を叩く。愚かで役立たずの父は、ベッドと窓の間の隙間に押し倒され、Shy Girlは逃げ去る。父は、1人残されたオーティスに、「あの女とファックしたのか?」と訊く。「友達付き合いだよ」(3枚目の写真)。「『友達付き合い』? あいつは、友達なんかじゃない。カモを友達のなんかするか?」。「僕は『カモ』じゃない」。「いいや、お前はカモだ。12歳のな」。「彼女が好きだ」。「くそ! 『好きだ』と?」。「そうさ」。ここで、父は昨夜ストリップ・バーで飲み過ぎたため、トイレに駆け込んで吐く。

父は、「愛は おむつを売るんだぞ〔Love sells diapers〕」と言う〔“diaper” には、これ以外の意味がない/愛→妊娠→赤ちゃん、と言いたいのだろうか?〕。オーティスは、Shy Girlを擁護しようと、「彼女は、手を握ってくれたけど、あんたは、頬を叩いたじゃないか」と、批判する。「俺は、お前の父親だからな。お前には、そんなもの買わせん」。「買えるよ」。「やめろ! ふざけるな」。「あんたなんか、怖くないから」。「何て奴だ。もう、こんなとこにはいたくない」。「どこにも行けやしないさ」。「俺は 好きにできる。大人だからな。だが、お前は どこにも行けん」。「じゃあ、一緒に連れてけよ」。「ヤだな。トムに頼め。でたらめ〔applesauce〕並べて、キャンプに連れてってもらえ」。「一緒だ」。「ダメだ。お前が行け。前ならやれる。俺にはできんかった。おめでとよ。良かったな、ハニー・ボーイ」。「本気じゃないだろ?」。「ああ、そうかもな。本物なんて何一つない。それが、俺のアドバイスだ。お前のオヤジとしてのな。現実の世界じゃ、木は朽ちる。石はボロボロになる。人間は死ぬ。それが現実の社会だ。だから、お話や童話や夢の世界に生きるしかない」。「理解できない」。「お前は まだ12だ」。「だけど、理解したい。“お話” も欲しい」。「そんなもの自分で作ればいい。俺の助けなど要らんだろ。お前ならできるはずだ。どう感じると思う… 俺に対して、俺を雇ってるなんて口をきく息子を持ってたら、どんな思いがするか分かるか?」。「僕が雇ってなかったら、あんたはここにいない」(1枚目の写真)。それを聞いた父は、思わず洗面台に頭をつけて、すすり泣く(2枚目の写真)〔恥か? 自己嫌悪か? あるいは、後悔か?〕。父は、気分を鎮めようとタバコを取り出す。言葉が過ぎたと思ったオーティスは、タバコを取って来て座り直すと、父の仕草の真似をしてタバコを取り出し(3枚目の写真)、ほぼ同時に火を点ける(4枚目の写真)〔父と一心同体だと示したかったのか?〕。オーティスの態度を見た父は、「取り引きだ〔Horse trade〕」と言い出す。「俺を見下すのはやめろ。批判したり、過去を持ち出したりするのもやめてくれ。今さら、変えようがない。その代わり、お前には、俺の知ってることを教えるし、持ってるものもやる」。「いいよ。取引成立だ」〔2人の関係は、親子というより仲間同士となる〕

父は、「あるものを育ててる」と言い出す。「高速の脇でマリファナを育ててる。101号線でシンサミラ〔催眠性の高いマリファナ〕だ」。それを聞いたオーティスは、「パパ、また捕まったらどうする?」と心配する。「誰に?」。「警察とか、市とか」。「市は水をかけてくれてる。手がかりはゼロだ。これが上手くいったら、全部の高速に植えて、月にツリーハウスを作ってやる。俺を信じろ、ハニー・ボーイ。お前のオヤジだぞ」。オーティスの表情には、これまであったような悲しさはない(1枚目の写真)。2人はバイクに乗って “栽培場所” に向かう。その時、父のバイクは高速を走らず、川の堤防を走って裏から高速脇の草むらに近づく〔これまでもこうしていたのだろうが、位置関係がよく分からなかった〕。オーティスは清掃係のチョッキを着て草むらの中に入って行く。父は、オーティスの胸のあたりまで伸びたマリファナの前で、「これだ、1つ取ってみろ」と言う。種(?)を摘み取ったオーティスは、「べとつくね」と感想をもらす(2枚目の写真、矢印)。「その通り。これぞ魔法の産物。神、ここにありきだな」。父は、オーティスをコンクリートで覆われた堤防の端に座らせ、タバコに火を点ける(3枚目の写真、矢印)。「種はバラバラに壊れて花に変わるんだ。荒っぽいだろ、ハニー・ボーイ」。

オーティスは、父に抱かれ、これまで味わったことのない喜びに浸る(1枚目の写真)。画面は変わり、施療施設を出た青年オーティスは、夜、元暮らしていたモーテルに行ってみる。父は相変わらずそこに住んでいた。2人はプールサイドに座って短い会話を交わす。「あんたの映画を作ろうと思ってる」。「俺の映画を作るのか? カッコよく見せてくれよ、ハニー・ボーイ」(2枚目の写真)。映画が終わり、最初に示されるのが、1枚の白黒写真(3枚目の写真)。映画よりも幼い頃のシャイア・ラブーフを抱くジェフリー・ラブーフ。1枚目の写真の構図は、この最後の白黒写真に対して捧げたオマージュであろう。

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